2012年02月14日
◆旅したスペインの思い出を訪ねて
15年くらい前だろうか。知人とスペインを旅した時、
一日、地方を巡った覚えがある。
その時、案内してくださったのが、その地を制作拠点とするアーティスト
銭谷嘉康氏だった。豊かな自然の中をドライブしたり、レストランの
中庭で兎!を食したり、銭谷氏のアトリエを拝見したり。
古城の跡のような高台で、腰をおろして風に吹かれていた記憶がある。知人は「サクラダファミリアとか美術館とかもいいけど、こういうところでぼんやりしている時間がいいよね」と立ち去り難そうにしていたっけ。
忙しない旅の中の、心安らぐ時間だった。
そんな思い出のスペインと日本を行き来し、各地で個展を開く銭谷氏の大阪での展覧会を覗いてみた。
◆浮遊するような開放感に出会える一枚
建国記念日のギャラリーは、銭谷ファンや作家仲間など、訪れる人が絶えない。ガラス作家だと言う女性は「明るい色彩の作品は、今回初めて見たような気がします。光をたっぷり取り込んで、不思議な浮遊感があるような…」とつぶやいた。
彼女が見ていたのは、ライトグリーンが美しい作品。『陰影礼賛』とタイトルのついたシリーズだ。無数のやわらかな淡い球体が、寄り添いつつも自由に戯れてるように見える。浮遊感…確かに。
一方、シルクスクリーン作家だと言う女性は、入り口近くに並べられた作品が「銭谷さんの作品らしく、好きだわ」と眺めていた。 『閉ざされた刻』
「これはスペインの窓かな…(笑)」(銭谷氏)
そういえば石の建造物にある窓のようだ。『閉ざされた~』とあるが、もれくる光を感じるようで、閉塞感はない。
作品に共通して感じる“光”が銭谷氏の追い求めるテーマであり、もしかしてスペインという地を選ばせた理由なのかもしれない。
◆ミクストメディアによるさまざまな光の表現
銭谷氏は一年の半分をスペインで過ごす。カタルーニャ地方のコスタ・ブラバを拠点に制作活動を続けている。カタルーニャは、画家のミロやダリ、建築家のガウディなど、優れた芸術家を生み出した地だという。
スペインというと闘牛やフラメンコをイメージしがちだが…
「みんなそう言うけど、それはアンダルシアの文化ですよ。バスクもカタルーニャもぜんぜん違う。日本の中に韓国や中国を持ってきたようなものです。それくらい違う。
私がいる地方では、闘牛は動物愛護の視点から禁止されています。
フラメンコだってないし」(銭谷氏)
展覧会を訪れた客と、アートの話だけでなく、スペインの話でも盛り上がる。そんな話からも、以前見たスペインの豊かな光を思い出す。
銭谷氏は、光を油彩、アクリル、岩彩などミクストメディアを用いてさまざまに表現する。
「星とか宇宙とか。私も今、そんな作品を創りたいと思っていて、刺激になります」アーティストらしき青年が、銭谷氏と熱心に話を交わしながら指さした作品は『Works』と題されていた。
こちらもまた、『陰影礼賛』と違った光を感じさせる作品。
神が人に与える叡智が、光の勾玉となって降り注ぐ、そんな風にも見える。
さまざまな光に触れる銭谷氏の展覧会は2月17日まで
ギャラリーエスパス446にて。http://www.espace446.com/
銭谷嘉康氏プロフィール
陶芸家 荒木高子氏に陶芸を学ぶ。独学で絵を始め、スペインのコスタ・ブラバを制作拠点に活動中。スペイン、日本各地で個展開催。