遊民悠民(ゆうみんゆうみん)

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ありとあらゆる情報が溢れるいま、役に立つ情報が見つけにくい。
20代から60代までの「遊民悠民」メンバーが、「遊ぶ」「暮らす」「食べる」をテーマに
さまざまなモノを比較し、レポートしていきます。

あそぶ

初芝居は、猿之助襲名の舞台

お正月気分を味わうなら、文楽や歌舞伎の初芝居。今年は亀治郎改め四代目猿之助の襲名舞台がかかるとのことで、難波の松竹座を初芝居に選んだ。
ちなみにホームページのポスターは、亀治郎の友人である福山雅治によるもの。都会の空を舞い飛ぶ亀治郎という大胆な構図だ。

四代目猿之助(亀治郎改め):http://bit.ly/RVNlev
オフィシャルサイト:http://www.ennosuke.info/

福山雅治オフィシャルサイト:http://www.fukuyamamasaharu.com/ 

◆大好きな源九郎狐を猿之助で見る

口上のある夜の部は、ず~っと売り切れ。昼の部で初春気分と参りましょう。文楽でも歌舞伎でも、一番好きと言っていい『義経千本桜』の“吉野山”を猿之助の佐藤忠信(源九郎狐)、藤十郎の静御前で見られるのだから、うれしや!

『吉野山』上演前には、猿翁、猿之助、中車の名入り幕がかかる。福山雅治から贈られたもの。

『義経千本桜』は偽忠信がときどき現す狐のしぐさが心憎い。親狐の皮でできた初音の鼓を、まさに親と慕い、愛しくてならぬ様子。そのために人(忠信)に化けた狐という設定が、おかしくも哀れを誘うのが役の見せどころ。猿之助の子狐は軽妙で愛らしい。
演目の後半では、追ってきた逸見藤太(翫雀)の家来を相手に、華やかな立ち回りを演じる。最後に糸抜きによって、忠信の紫の衣装から、白に狐火が描かれた衣装に早変わり。花道を高く跳ねながら去っていく姿に、大きな歓声が沸いた。
昼の部はこのほかに、曽我もの『根本草摺』、歌舞伎十八番『毛抜』と華やかな演目が揃う。締めは石川五右衛門の「絶景かな~」の台詞で知られる『楼門五三桐』で、九代目中車の五右衛門(ご存じ、俳優の香川照之)と二代目猿翁の羽柴久吉の親子共演に、客席よりあたたかな拍手が送られていた。

市川猿翁(2代目):http://bit.ly/VNn8gy
香川照之:http://bit.ly/aTgJZj


寿初春大歌舞伎は、1月26日まで。
松竹座HP:http://www.shochiku.co.jp/play/shochikuza/

◆浪花の初春を彩る“猿之助写真展”

初春歌舞伎に合わせ、年末からお正月にかけて、猿之助ファンにうれしいイベントが開催されていた。大丸心斎橋店での襲名記念“猿之助への軌跡展”。舞台写真や衣装などの展示だ。
ポスターパネルはイベントフロアだけでなく、ファションなどの各フロア、大丸一階外の御堂筋側、心斎橋側にも展示され、猿之助ファンだけでなく、買い物客の目を大いに楽しませていた。
また、イベント会場では1時間に一回、45分間の猿之助のドキュメンタリーフィルムを上演。初春歌舞伎の夜の部でやる『義経千本桜』の“川連法眼館の場”の解説もあるので、すっかり夜の部まで見た気分になれる。
歌舞伎のチケット提示で、こちらの催しは半額で入れるしくみ。観劇の前後に心ブラも楽しんで、という粋なはからいだ。

売り場にも迫力のポスターパネルが!

艶やかなポスターも、お正月らしい。

こちらは路面のポスターパネル。

 

こんな美しい女役も! よっ, 澤瀉(おもだか)屋

◆明かされる、2.4秒の早変わりの秘密

“猿之助への軌跡展”のドキュメンタリーフィルムで紹介される“川連法眼館の場”は、『義経千本桜』の四段目の切にあたることから、通称“四の切”と呼ばれる。忠信から源九郎狐への早変わり、狐が意外な場面から登場し、最後は宙乗りで天へ去るというケレン味たっぷりの演目だ。
仕掛け満載の江戸時代のケレン演出を復活したのが、三代目猿之助(現:猿翁)。庶民のものだった歌舞伎の楽しさを取り戻し、さらに“スーパー歌舞伎”という新境地まで開いた革命児だ。

イベント会場の囲いパネルにも、猿之助の姿が。

三代目の“四の切”を見て育った四代目猿之助だから、今回4日間の稽古で(そのうち舞台稽古は1日)で、忠信&源九郎狐を演じたという。ドキュメントでは、舞台裏で常に走っている四代目猿之助が映し出される。忠信と源九郎狐の早変わりは、衣装と鬘を変えるだけでなく、化粧も微妙に変えている。狐のときは、目のふちの朱も多く引き、忠信の時には控えている。そのため、舞台裏中央に化粧台を据え、芝居の進行するその後ろで、猿之助が化粧直しをしていたりするのだ。
「さてはおぬしは狐じゃな」静御前に言い当てられ、偽忠信が座敷からすとんと落ちて掻き消え、一瞬後に軒下からはい出るときには、もう狐の衣装になっている。その間、なんと、2.4秒!
これは、忠信姿で座敷に坐しているときから準備が始まっているという。
床下からスタッフの手が出て、忠信の衣装の糸を抜く。忠信が下に落ちると同時に衣装も落ち、下に来ていた狐の衣装“毛縫”姿となって、そのまま這い出すことができるというわけだ。
内幕を明かされても、息の合った動きがなくては成立しないケレンの見事さに、ため息をつくばかりだ。
座敷の庭へ降りる階段に狐忠信が一瞬で現れる仕掛けも解説していた。見せ掛けの階段が折りたたまれると同時に、下に寝かされていた本物の階段が猿之助ごと押し上げられ、一瞬でそこに現れるように見えるのだ。これは江戸時代後期に考案された仕掛けらしい。すごいね。


こんな仕掛けの裏話も興味深く、歌舞伎がより楽しくなるドキュメンタリーだった。このイベントは残念ながら7日で終わったが、初春歌舞伎は1月26日まで。華やかな襲名の舞台には、まだ間に合う。若手の実力派猿之助、俳優から歌舞伎役者へと変わり種の中車の演技を、初芝居で味わってはどうだろう。

安里道行
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