2012年11月19日
近畿の蕎麦どころ、出石(いずし)で開催される「永楽館歌舞伎」をご存じだろうか。11月3日の出石のお城祭りの翌日、4日から1週間上演。出石にある昔ながらの芝居小屋「永楽館」がその舞台だ。
※出石お城祭り:http://www.izushi.co.jp/osiromaturi/index.html
◆昔ながらの芝居小屋で、歌舞伎を味わいたい!
大阪より“特急こうのとり”で八鹿(ようか)まで2時間少し。そこからバスで20分ほどで出石へ。バスには着物姿の客もいて、歌舞観劇が目的のにぎわいのようだ。途中で乗ってきた地元のお年寄りもびっくりの様子。
「なにか、ありますんかいの?」
「永楽館で歌舞伎があるんですよ。このバス、いつもはがらがらですか?」
「うん。がらがら。で、今日は、ええ芝居がありますのんか?」
「それはもう」
「そうか。私ら、病院通いがせいいっぱいだな。はっはっはっ」
あけっぴろげなお年寄りの笑いに、とても楽しい気分になった道中だった。
目的の「永楽館」は明治34年に開館。昭和39年に閉館したが、往時を惜しむ声に、平成20年、大改修の上、復元。こけら落としとして片岡愛之助氏らによる歌舞伎を上演。それが続いて、今年で5年目を迎えるとか。
大阪松竹座で、この永楽歌舞伎のチラシを見つけ、芝居小屋での歌舞伎に心惹かれ、駆けつけた私だ(四国の古い芝居小屋「内子座」で文楽を見たことがあるけれど、近畿にも古い芝居小屋があると知って)。いざ、レトロ気分で歌舞伎を味わおう!
※永楽館
http://www.izushi-tmo.com/eirakukan/
片岡愛之助
http://bit.ly/ONZOAb
内子座
http://www.town.uchiko.ehime.jp/site/uchikoza/
◆「民家、民家、永楽館、民家…」(愛之助)
「最初の年は、人気のない町に、ここでお芝居ができるかと心配になり、また、場所も、民家、民家、永楽館、民家、といった感じで~」と、口上での愛之助氏の言葉。私もバスで来る途中、あまりに人を見かけないので少し不安に思ったし、永楽館の立地にも正直驚いた。まさに民家の間に紛れ立つ。愛之助さんの口上通りだ。
口上は「どこからともなく湧き出る如く人が詰めかけ、今日もかくにぎにぎしく」と続き、会場にぎっしり集まった観客に、私も「ここには人がいるんだあ」と驚きつつ、その熱気に飲み込まれたのだった。
永楽館は、脱いだ履物をビニール袋で持ち込む桟敷スタイル(一部椅子席あり)。案内係も着物に前掛けの中居さん風で、芝居小屋気分を高めてくれる。演目は『実録忠臣蔵』『口上』『鯉つかみ』。
『実録忠臣蔵:大石妻子別れの場』は城を明け渡した内蔵助が京都山科に移り住んでいたときの話。本心を明かさないため、また、家族への後の難を避けるため、放蕩三昧を装い、離別を言い渡す。
離別された妻りくが、姑・息子と共に故郷豊岡に去るのだが、ここ永楽館(豊岡市出石町)にちなんでの上演だ。
小さな芝居小屋なので舞台が、役者が近い! 舞台袖で笛や太鼓も響き、轟き、自分たちも舞台にいるかの臨場感。舞台・客席と一体感が味わえる、まさに芝居小屋の醍醐味だ。
◆舞台に水槽を入れての『鯉つかみ』上演
愛之助さんはじめ出演者による口上が、また楽しい。ご当地蕎麦や土産物屋の宣伝も出て、出演者の永楽館歌舞伎や、ご当地への思い入れ、愛情が伝わる。隣の役者の口上に、伏しながら笑いをこらえている役者の様子も見え、気取らない、親しめる内容ばかりだった。
最後の舞台が『鯉つかみ』。鯉の変化を、最後は湖に飛び込んで退治する物語だが、本水を使って行われた。現代の舞台では難しい、舞台を壊して水槽を埋め込む仕掛けが、木造の芝居小屋だからこそ実現。
愛之助さんがざんぶと湖に飛び込み、鯉と闘うクライマックスは、水しぶきが客席まで。そのため前に座った客はレインコートを配られ、客席にもシートが貼り巡らされた。何度も降りかかる水しぶきに、悲鳴まじりの歓声も上がり、興奮の締めくくりに。
鯉を退治した愛之助さんが、花道を帰るも、全身ずぶぬれのまま、しぶきを振り向きながら六法を踏む。やんやの拍手のうちに幕。あ~、おもしろかった! 「毎年来ている」客が多いのも頷ける。
※鯉つかみ
http://bit.ly/Qo8YWv
◆やっぱり、皿そばで締めなくちゃね
舞台のあとは、やっぱり皿そばでしょ! 駆け込んだお店では「芝居のお客さんですよね」の言葉と共に、皿そばが2皿分サービスされる。舞台の興奮を反芻しながら、あっというまに平らげた。おまけのお饅頭もおいしかったからお土産に買って。
歌舞伎チケットで、周辺施設の入場が無料になったり、割引されたりするので、ちょっとした散策もついでに楽しめる。はや紅葉の出石のワンデーツアーだ。
◆“ラブリン”の飛び交う車中?
さて、帰りの“特急こうのとり”車中。前の席も、後ろの席も歌舞伎帰りのようで、“ラブリン”の言葉が飛び交っていた。
“ラブリン”とは、ご存じ、片岡愛之助さんの愛称。歌舞伎役者には、珍しい愛称だと、以前から思っていた。
私は、特に愛之助さんのファンというわけではなく、芝居小屋に惹かれて観劇したくちだ。が、仁左衛門さんは大好きだし、愛之助
さんの父上、秀太郎氏の女形もいいな~と、松嶋屋ファンではある。今回の観劇で、永楽館歌舞伎にはまった!愛之助さんも好きになった! “ラブリン”にも頷けるな~と、大満足で帰途に就いたのだった。
※出石町公式観光ガイド
http://www.izushi.co.jp/