2011年11月09日
仏像彫刻を教える
坂本アサさんは、もう20年近く各地で仏像造りを教えている。
全国のカルチャーセンターなどでも「仏像彫刻」の教室は
開かれているが、素人には、仏像彫刻はとてもハードルが
高そうに思える。
彫刻刀を初めて持つ、なんて人にはちょっと無理ですよね。
ところが意外にも、「いいえ、教室に初めてこられるかたは、
ほとんどそうです。でも、三ヵ月後には、みなさんご自分の
仏像を彫りあげられます」。
にわかには信じがたいお答えだが、大仏師が、それを
可能にしたんですよ、と、本を見せてくださった。
それは「松久宗琳の仏像彫刻 入門から中級まで」、
アサさんの師の著書だ。
たしかに優れたノウハウ本というのはあるのだろうけれど、
でも、とわたしはまだ疑っている。
「この板を最初に彫っていただきます(本の上にのっている
かまぼこ板のような木)。この木の表面に見える縞模様、
細くて濃い部分が冬目、広くて明るい部分が夏目です。
冬目は硬く、夏目は柔らかい。刃のすべりがちがいますが、
ここにかんたんな幾何学模様を彫る練習をします。
「地紋彫り」といいますが、これで初めて彫刻刀を持つかたも、基本的な刀さばきが学べます」
仏像を彫るために身につけなければならない手順が、
きちんと決まっているのだ。仏の足、仏の手、仏頭も、
部分ごとに練習する。アサさんが教室で実際に使っている、
教材を見せていただいた。
手前に見える、如来像、右側は彫りはじめの像、左側は
さらに彫りすすんだ状態、と各段階の見本が用意されている。たしかに基本を学びながら、仏師のアドバイスを受け、自分だけの仏像を彫っていくなんて、なかなか贅沢な体験だと思う。
生徒さんはどんな方ですか。
「定年になってすぐ、という方が多いですね。
若い人も何人かはいらっしゃいますが、やはり熟年が
主流です。何年も通っている方も結構おられます」
なかには、仏像を二ヶ月に一体ずつ彫り上げる猛者も
いるそうだ。
「松久宗琳は、仏像の寸法もわかりやすくパターンで表して
いるので、初心者もバランスのとれた仏像が造れます。
これは、明治の先人の偉大な功績があってできたことだと、
思います」
アサさんは、もう一冊の本を出して、教えてくれた。
明治に西洋の文化が怒涛のように押し寄せてきたときに、
たとえば、エジプト彫刻にはエジプト彫刻の法則がある、
でも、仏像法則というのは不明だった。
そこで、東洋彫刻の根本の法則を確立したいと、
明珍恒男(みょうちんつねお)という彫刻家が行動を
起こしたそうだ。
なんと、寺院にある仏像を、ひとつひとつ実際に寸法を測り、それをスケッチにおこし、数字を書き入れて
「仏像彫刻」という本にまとめた。
アサさんが持っている本は、この明珍さんの業績が
忘れられている、後世に残したい、と大正の人、太田古朴
(おおたこぼく・仏像彫刻家、研究者)が、まとめたもの。
「明治って、ほんとにすごい、と思うんです」と、アサさん。
そうだ、明治という時代は、国を開き、西洋諸国の大きな力に飲み込まれないように、西洋に伍して自分の足で立つために、在野の人も、素封家も庶民も、なんの報奨も求めず、
血のにじむような、涙ぐましい努力をした時代なんだ。
アサさんとひとしきり、明治をたたえて、今回は終了。
次回は、アサさんの「木彫家」としての作品を紹介する
予定だ、おたのしみに。
現在アサさんが教えている「仏像教室」は、こちら。
神戸新聞文化センター(KCC)
http://k-cc.jp/
(彫刻・陶芸の講座で、探してください)
小阪カルチャースクール
http://www.kosaka-culture.com/
(講座一覧から、美術・書道のコースからさがしてください)
講座は、変更される場合もありますので、直接、お問い合わせくださいますようお願いいたします。
(ここまで第二回)