遊民悠民(ゆうみんゆうみん)

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ありとあらゆる情報が溢れるいま、役に立つ情報が見つけにくい。
20代から60代までの「遊民悠民」メンバーが、「遊ぶ」「暮らす」「食べる」をテーマに
さまざまなモノを比較し、レポートしていきます。

あそぶ

京のお伊勢さんと疏水 第十九峰 神明山 (その一)

今回登るのは第十九峰「神明山」。「日御山」(ひごやま)「日山」(ひのやま)「粟田山」(第二十峰の粟田山ではない)「下粟田山」などとも呼ばれる。

神明山

南禅寺境内からみた神明山。南禅寺のやや南東に当たる

東山連峰は蹴上の三条通りで南北に分かたれる。かつては連峰の鞍部だったところ(現九条山付近)が、東海道(三条通り)の行き来をスムーズにするために掘り下げられた。そのため航空写真で見ると、蹴上から御陵の間で山塊が途切れているように見える。

神明山付近の地図

神明山のところで山塊が途切れる。第二十峰「粟田山」とは蹴上をはさんで相対する位置にある

十七峰「南禅寺山」、十八峰「大日山」と続いて、神明山は北側山塊の一番南端に位置する。但し、市中から見ると、南北の山塊が重なっているのでひとつの連なりには違いない。地下鉄東西線(かつての京阪京津線)の蹴上駅のやや東南に当たる。
三条通りを挟んで蹴上浄水場、その背後の第二十峰「粟田山」と相対する。標高二百十八メートル。蹴上付近から見ると一番大きな山である。

蹴上からみた神明山

蹴上の交差点からみた神明山。この辺りの峰々はピーク(山頂)、山境がわかりにくい

我が家からは直線で約四百メートル。粟田山に次いで近い。玄関を出て、山頂まで三十分とかからない距離である。
蹴上の交差点を東側に渡り、琵琶湖疎水の「インクライン」にそって、少し南にゆくとインクラインをくぐる「ねじりまんぽ」と呼ばれているレンガづくりのトンネルがある。正面から見ると内部のレンガの積み方がらせん状になっていることからその名がついている。

ねじりまんぽ

インクラインのした貫通する「ねじりまんぽ」。上のプレートには「陽気発処」とある

「琵琶湖疏水」については後ほど詳しくのべるので、ここは先を急ごう。「ねじりまんぽ」を過ぎてさらに坂を登ってゆくと地下鉄蹴上駅の東側出口にでる。そこを過ぎて百メートルほど先の左手に「日向大神宮」の一の鳥居が見えてくる。

日向大神宮の一の鳥居

三条通りから見た日向大神宮の一の鳥居。間口が狭いので、車だとなかなか気がつかない

間口が狭いので、車で走っていると見逃してしまうほどである。この一の鳥居のところが粟田口(京の七口の一つ)に当たり、弓屋、井筒屋、藤屋など、京では有名な茶屋があり、旅人たちの送り迎えで賑わったかつての面影はまったくない。鳥居をくぐり、民家に挟まれた狭くて短い石段を上がると、疎水の水路に「大神宮橋」が掛る。

堂々たるレンガ造りのポンプ室。山陰にひっそりとこのような文化遺産がある

大神宮橋とは言え長さは十メートルくらいの小橋。南側には「九条山浄水場ポンプ室」が見える。もともとは京都御所へ防火用水を送るため、明治四十五年に「大日山貯水池」(現九条山浄水場)が宮内省によって作られ、そこに疎水の水をくみ上げるための「御所水道ポンプ室」。御所紫宸殿より高くするためこの場所(高低差を利用して火災時に放水の圧力を高めるため)に建てられている。小さいとはいえ堂々たるレンガ作り。京都帝室博物館(現在の京都国立博物館)も設計した片山東熊や山本直三郎の設計。大正天皇が皇太子時代に前の疎水を船で通ることがあり、そのため、玄関が疎水に向いている。

橋を渡ると二の鳥居が見えてくる。
この辺りまで来ると、すっかり山中の雰囲気で、三条通りから数分のところとは思えない。

参道に咲くシャガ

訪れたときはちょうどシャガが参道のそこここに咲いていた。

秋には知る人ぞ知る、紅葉の名所だけあって、青もみじの美しさは格別である。

青もみじが美しい参道

秋、人気の南禅寺永観堂方面と逆方向のこちらは、隠れた紅葉スポットである

三叉路の坂をまっすぐに登ると、『京のお伊勢さん』と呼ばれる「日向大神宮」である。神明山はこの日向大神宮の『神体山』である。

日向大神宮はいまでこそ、ひっそりとしたお宮さんだがその歴史は古い。社伝によると、第二十三代顕宗天皇(四八五~四八七)の時代に筑紫日向の高千穂の峯の神蹟を移して創建され、天智天皇が鎮座の山を「日御山」と名づけたと伝えられている。その後も清和天皇より「日向宮」の勅願を賜るなど信仰を集めたが、応仁の乱で社殿等を焼失、祭祀が一旦途絶えた。しかし、江戸時代初期の篤志家、松井藤左衛門によって旧社地に再建され、東海道を往来する旅人たちの道中の安全祈願、伊勢神宮への代参の社として賑わったという。

日向大神宮

日向大神宮の入り口。両側から山が迫るが、京の町家と同じ「うなぎの寝床」で奥深い

主な祭神は(内宮)天照大御神多紀理毘賣命市寸島比賣命多岐都比賣命
(外宮)天津彦火瓊々杵尊天之御中主神、この他境内社には伊邪那岐命(イザナギノミコト)
伊邪那美命(イザナミノミコト)をはじめ多くの神々が祀られている。

内宮

天照大神をはじめとして多くの祭神が祭られている。稲荷社をはじめ境内摂社も多い

参道の石段に「貞享三年八月(一六八六年)寄進」の文字が見える。今から約三百二十六年前のものである。石段を上がって左手に拝殿、その奥に「外宮」ある。この日向大神宮は「京のお伊勢さん」といわれる通り「外宮」「内宮」が揃っている。そのほか多くの境内摂社がある。境内摂社の配置は下図を参照(神宮HPより)。

境内案内図

拝殿で一礼の後、「外宮」に参拝。

神明造(外宮)

神明造の神殿(外宮)

「外宮」「内宮」とも京都の神社では数少ない「神明造」。観光客のあまり訪れない静かな雰囲気に、簡素な神明造りの社殿がよく似合う。
さらに小さな池に架かる太鼓橋を渡り、白木の鳥居をくぐると本宮(内宮)である。

内宮

本殿のあたる内宮。主祭神の天照大神を祀る

伊勢神宮とは比べくもないが、境内はかなりの規模である。三条通りからの入り口の狭さからは想像できない。参道、境内の木々の大きさからもかつての繁栄を感じることができる。清和天皇のお手植えの神木と伝えられていた、地上三メートル位の所から七本に分かれ七股の桧(ひのき)と称された御神木(名木)をはじめ、多くの巨木が昭和九年の室戸台風で倒れたとのこと。もし、それらの木々が折れずにあったら、もっと森閑とした風景になっていただろうと惜しまれる。

内宮前から入り口を見る。森に囲まれた神さびた地である

内宮の横から、境内を出るような感じで左に山道をすすむ。出た所に「影向岩(ようごいわ)」がある。神が降りてこられる岩といわれている。いわゆる「磐座(いわくら)」である。

影向岩

京都のパワースポットととして最近、若い女性にも人気があるという

そこを過ぎて急な山道を少し登ると巨石を刳り貫いた「天の岩戸」がある。

天岩戸

こちらから入って、向こう側の出口に出ると「厄落とし」になるという

中には小さな戸隠(トガクシ)神社があり、天手力男神(アメノタヂカラオノカミ)が祀られている。

諏訪神社

あまりに「参拝」が多く、お願いすることも尽きてきた…

洞をでてさらに山道を登る。この辺りからは参道ではなく、ハイキングコースになっている。山道をゆくと、数十メートルおきに「日御山」と記された小さな石標が埋められている。いる。

日御山石柱

「日御山」は「神明山」の別称である。山域の境界を示すものだろう。

しばらくゆくと、「京都一周トレイル東山コース」に合流する。そのまま進むと南禅寺山から大文字山へ続く。私は神明山の山頂が目当てなので、コースから外れて、山道を高い方に(南西方向)に登ってゆく。そうすると少し平らになった所があり、標識のあるところを山頂として、再びコースに戻った。

神明山山頂付近

神明山山頂付近。はっきりとした標識もないので確認しにくい

分岐点に戻り、大文字山方面には行かず、しっかりした山道が西に向かってあり、「日御山」の石標もそれに沿って並んでいるので、その道を下ることに。地図も持たず、迷う可能性もあるが、木々の間からは、南禅寺や岡崎当たりの景色が見えるので、不安になることはなかった。

大日山の墓地を左手に見て下ってゆくと、右手に後嵯峨天皇皇后姞子の「粟田山陵」が見えてくる。

後嵯峨天皇皇后姞子の粟田山陵

神明山は「粟田山」とも呼ばれることもあり、この粟田山は神明山をさす

坂を一気に下ると、なんとそこは南禅寺の鐘楼があるところだった。

南禅寺鐘楼

去年、一昨年と、この鐘楼で除夜の鐘をつかせていただいた

鐘楼は南禅寺の境内、有名な「水路閣」の横を上がった所にある。

水路閣

この上が疎水分線の水路になっている。長さは百メートルあまり

水路閣上部

水路閣上部の水路。この先は疎水分線の南禅寺トンネルに続いている

水路閣から南禅寺の境内には向かわず、水路閣の流れに逆らって疎水分線に沿って第一疎水と第二疎水の合流点に向かう。水路の両側に遊歩道があるが、南禅寺側のほうはそのまま下に落ち込んでいるので、高い所が苦手の私は山側に道を選ぶ。

疎水分線

蹴上の疎水から北白川に向かう疎水分線脇の遊歩道

分線の水量は豊かで流れも結構速い。ここに落ちればまず、そのまま流されてしまう。桜や紅葉の頃は人出の多い所、落ちる人はいないのだろうか?

遊歩道の終点がちょうど第一疎水と第二疎水の合流点になっている。次回はそこからインクライン(傾斜鉄道)を下り、蹴上発電所を始め、琵琶湖疎水にゆかりのあるところを尋ねることにしよう。

村井一角
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